母ちゃんと野球盤対決したら負けました
『ぎゃくてぇぇぇええん! ありうる最も可能性の小さい、そんなシーンが現実です!!』
球児たちの美しい汗と涙
それと比べて私はッ
これっぽっちも美しくないッ!!
このままじゃイカン!
よし! 友達いないけど私も野球するぞ!
早速やりましょうか。
箱を開け、組み立てた。
場外ホームランも出てくるということで、外野の外側にフェンスを装着。
バッターは白のユニフォームに黒い帽子。
ヤンキース時代の松井に似ている。あごのラインとかそっくり。
(右打席もあるよ!)
ピッチャーはレンジャーズのダルビッシュっぽい。
うーむ、走攻守どれも味わえるのだが(盗塁もできるよ!)……、
相手を空振りさせる快感、投球を待つ緊張感が味わえん。
やはり、友達がいないと野球はムリなのか……。
J( 'ー`)し 付き合ってあげようか?
か、かあちゃん…
ひっひっひっひ、コールド勝ちしてやるぜ。
この野球盤の投球レバーは奥が深い。
投球前にレバーを左右にスライドさせておくとその方向に変化球が投げられるのだ(左のレバーは隠し球だ!)。
「ずるいっ!」 ブンッ
扇風機みたいに空振りしていく母ちゃん。
野球素人ということもあり、ボールだろうとストライクだろうとお構いなしに振ってくる。
しかし、試合終盤。母ちゃんに変化が。
ボール球は見逃し、甘い球をフルスイングしてくる。
逆転されました。
「田中将大ッ!!」
「ダルビッシュ有ッ!!」
「岩隈ッ‼」
打撃からリズムを作り始めてきた母ちゃんは
投球の度に三人の名前を挙げてくるようになった。
母ちゃんの球筋は試合序盤とは明らかに違っていた。従来の野球盤のそれとは違い、浮き上がるように向かってきたのだ。
「空振りさんしぃぃん!」「チェンジ!」
バックスクリーンは単三電池二つ入れるとしゃべってくれる。
(ボタンを押せばイニング管理とSBOカウントもしてくれるから便利だ!)
母ちゃんの投げるポップアップする球。投球レバーを力強く弾くとそうなるようだ。俺も真似して投げれば母ちゃんもきっと空振りするはず。
「松井秀喜ッ!」
弾けるように場外に飛んでいった。
「場外ホームランね……」
「ゲェムセットォォォォ!」
母ちゃんの追い打ちは止められず、負けた。
「なんか勝っちゃってごめんね……」
『ありうる最も可能性の小さい、そんなシーンが現実です!!』
*最後は母ちゃんと一緒に片付けしました。
おしまい