吉原ドライバーから聞いた東日本大震災の話

そんなに遠くない昔、吉原のとあるソープランドによく通っていた。

 

駅から店に向かうまでが遠いので、車で送り迎えしてもらうんだが、その車内で、いろんな話を持ち掛けてくる運転手がいた。痩せててちょっと禿げてて、笑顔が素敵なオッサンだ。

 

「あっ、今日もカリンさん入るんですかぁ」

「胸が大きくていいですよねぇ~、お客さんが羨ましいですよぉ~」

「今日も楽しめましたか?」

 

みたいなことを頻繁に聞いてくる。金髪関西人のカリンさん(ピアノがうまくラカンパネラが弾けると言っていた。太くて短い指先が印象的だった)にハマっていた僕。運転手さんにカリンさんを褒められると「分かってるじゃないですか~運転手さん」みたいな嬉しい気持ちになってしまった。

お店に行くたび、オッサンとは送迎の車の中でそれ以外にもいろんなことを話した。

 

オッサンの行きつけの風俗店

オッサンの花粉症問題

ソープランドでボーイをやることの辛さ

 

とか。

 

で、あるとき東日本大震災の話になった。

当時もこのお店で働いていたオッサンは、震災が起きた瞬間はたまたま送迎もなく、店でヒマしていたらしい。お客さんも何人か入っていたが、全員プレイ中止(「どうしてもやらせてくれ」と拝み倒してきた一人のお客さん以外)。お店側が返金して、駅まで送っていったらしい。

出勤してたお姉さんたちは家まで送ったんだが、それはもう交通渋滞ですごく時間がかかったとか。

 

その日以来、たくさんお姉さんたちが辞めていってしまったんだって。

 

こんなところで何をやっているんだろうと思ってしまった

接客中に死んだら恥ずかしい

実家に住んでいた方が安心

 

とかそういう感じの理由で。新たに面接を求めてくる女性もなかなかおらず、経営面で震災のダメージがあったらしい。

 

そんな話を思い出した。

 

 

それから何度かお店に通ったものの、いつの間にかドライバーはコワモテのお兄さんに変わっていた。

カリンさん曰く「ツルツルは辞めた」と。

 

で、カリンさんが陰毛を剃り始めたのを機に、僕もお店に通わなくなってしまった。

今ではどこに行ったのかは分からない。イタリア人と付き合っていると言ってたから、その人と籍を入れているのかもしれない。

 

オッサンもきっとボーイを辞めて別れた妻の元に帰っていったんじゃないか。

いや、結婚してたかどうか知らんけど。

 

おしまい