医療事務の仕事を男がやると熟女が好きになる

今週のお題「いま学んでみたいこと」

 

その昔、医療事務をちらっと勉強していたことがある、

 

医療の現場にはぴちぴちのお姉さんが多い。

いまさら看護学や医学を学べない僕にとって

医療事務を学ぶことが、お姉さんたちと知り合うための一番の近道であると考えたのだ。

 

そんなこんなで某大手医療事務講座を受講。

そこには年下の女性、お姉さん、おばさん、いろんなバリエーションの女の人がいた。

ときどき男の人も見かけた。きっと僕と同じような腹積もりだったのだろう。

ここでの出会いもひそかに期待していたが、とくに何も起きることなく終了。

 

僕は自宅近くの大病院で働くことになった。

職場はおばさん8割、お姉さん2割といった割合。

お姉さんは少ないが、熟女も悪くない。

 

担当は受付窓口の雑用である。

 

受付の奥の方には無数のパソコンと無数のおばさん。

朝、荷物を置きに入ると就業時間前から仕事をしているおばさんも多くいた。

休憩室でしゃべっているおばさんもいる。

 

朝のミーティング。

マネージャー(髪の毛がオレンジ色のおばさん)からの檄が飛び、

おばさんたちは真剣な眼差しでそれを聞いている。

 

就職前の面接でマネージャーから

「あなたって、根性ある?」

と聞かれたのを思い出す。

ない、だなんて言えるはずないじゃないか。

 

あの質問の意図をようやく理解した。

この職場には強豪女子バレー部のような雰囲気が漂っていたのだ。

マネージャーも膝にサポーターみたいなのつけてるし。

 

ミーティングが終わるとすぐに診察時間が始まる。

始まるときには受付担当が壁一列に並び、場内アナウンスと共に挨拶をする。

が、待っている患者さんたちはみな、テレビや雑誌を見ている。ほとんどだれも見ていない。

 

ここから下っ端の仕事が始まっていくわけだが、下っ端なので受付で患者を応対することはまだない。

カルテの整理をしたり、保険証の期限や番号をチェックしたり、診察券・面会証の作成をしたり、といった感じのやらされる。

朝の場合、昨日から今までの急患のカルテがたまってたりするので、それのチェックから始まる。連休挟むとどっさりたまる。

仕事の量は多いが、内容は単純なのでロボットになったつもりで無表情に仕事をこなしていく。だいたい午前中には急患分の仕事を消化し、それからは来院患者の書類作成をその場その場でこなすことになる。

 

手が空きつつある、そんな状態になった人から各々お昼休憩に繰り出していく。

 

午後、お昼休憩から帰ってくる。

すれ違うおばさんたちはほとんどタバコの香りを新たにまとっている。

育児の疲れ、接客の疲れでストレスが溜まっているのだ。

 

来院患者の数が少なくなってくると当然受付も暇になってくる。

暇になってくると、熟女たち(僕の担当した窓口にはお姉さんはいなかった…)とのめくるめくフリートークの時間もある。

 

「ペーパードライバーはダメよ。いつでも車を運転できるようにしておきなさい」

「貯金は毎月少しでもいいからしておきなさい」

「親孝行しなさい」

 

おばさんたちからたくさん大切なことを教えられたような気がする。

スナックのママからいい話を聞くような感覚で、そのうえお金までもらえるのだ。

こんな職場なかなかない。

 

盛り場にいそうな化粧の濃さ、香水とタバコの入り混じった香り。

それでいてしわの多いくたびれた指先。家事に仕事、家庭にすべてをささげてきた人の指先だ。僕はすっかり熟女の魅力に取りつかれた。

 

「今日はあなたがいたからこんなに早く終わったのよ」

みんなで一緒に帰った。

バスで帰るおばさんたちと別れ、僕は駐輪所に向かった。

「あの子がいるとさ、」

僕の背中の方で、おばさんたちが何かを話しているのが聞こえた。

続きが気になったが、風に吹かれてよく聞き取れなかった。

 

そういえばへんな人が会計に来るとみんなでたくさん悪口を言っていた気がするが、どっちだったんだろうか。

 

結局何もドラマチックラブが起きることなく退職。

みんなで休日に遊びに行くとか、飲みに行くとか、忘年会を開くとか、

そういった類の事は一切やらないそうだ。

「そりゃあ女なんだからみんな好き嫌いはたくさんあるわよ」

とも言っていた。

 

 

ちょうど2年前くらいの話である。

あれからちょこちょこ体調を崩し、

病院に行くことがあるが、診療明細書はジッと見てしまう。

 

医療事務勉強しなおせば、

診察費を頭の中で計算しながら診察を受けることができるかもしれないと思うと、

ちょっとまた興味が湧いてきている。

やるなら独学でやるけどな!

 

おしまい